お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 掴まれている腕だって痛かった。彼の長い指が食い込んで、このまま折られてしまうんじゃないかと不安になる。

 それでいて、キスを求められて喜んでいる自分もいた。

 甘い唇の感触を、八年過ぎた今もまだ覚えていることが恐ろしい。

 怖いのに、もっと求めてほしい。なんでも差し出すから、どうか優しくしてほしい。

 酸素を肺に取り込み切れないせいか、だんだん意識が朦朧としてきて頭が回らなくなる。

 キスはうれしい。でも怖い。

 わけがわからなくなって、口内をなぞった舌に噛みついてしまった。

「……っ」

 藍斗さんが小さく息を呑んで、やっと私の唇を解放する。

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