お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 私はというと、ようやくまともに呼吸できたおかげでひどくむせてしまった。

 肩で必死に息をしていると、今度は顎を掴んで上を向かされる。

「う……」

「借金のために身体を売っていたんだろう。だったら、俺になにをされてもかまわないはずだ」

 無理やり彼と視線を合わせられる。冷淡な瞳に今は暗い炎が宿っていた。

 怖くなってふるふる首を振ると、鼻で笑われる。

「初対面の男はよくて、俺は嫌なのか? 誰が最初にお前を抱いたと思っている?」

「っあ、や」

 いきなりやわらかなふくらみを手のひらで包み込まれて息を呑む。

 こんな時でさえ、彼に触れられて胸が高鳴るなんてどうかしていた。

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