お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 なにをやっているんだ、俺は。

 こんなに自分の感情を抑えられない人間だっただろうか。いや、違う。

 仕事でなにがあった時も、いつだって冷静に対処できた。中学時代からの親友、志信と価値観の違いでぶつかった時でさえ、淡々と自分の考えを伝えられた。

 円香だけが俺をこんなにくるわせる。

 そばにいるだけで俺の心臓がどんなに激しく脈打つのか、自分で胸を引き裂いて見せてやりたいくらいだ。

「……っ、ふ」

 その時、円香が小さな声をあげた。

 ふるりと身体を震わせ、自分を守るように縮こまってしゃくりあげている。

 円香、と呼んで彼女の背を撫でようとした。

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