お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 でも、俺が触れてはいけない気がして手を引っ込める。

 そうしている間に、円香はすんと鼻を鳴らして泣き始めた。

 怖い夢を見ているのかもしれない。八年前も、ホラー映画を見た後に寝た彼女が悪夢を見て泣いていたのを思い出す。

 円香を夢の中でも泣かせているのは、きっと俺だ。

 あんなひどい真似をして怖がらせ、傷つけてしまった。

 すんすん、と円香がすすり泣く音が響く。

 堪らなくなって抱き寄せ、その背中をあやすように撫でてやった。

 円香は俺の胸に顔を擦りつけてくると、しばらくすすり泣いてから徐々に静かになっていった。

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