お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「充分だ」

「よかった」

 その反応を物足りなく思ったのはたしかだ。

 せっかくなら、似合うとかかわいいとか言ってほしかったけれど、そういう関係ではないのだから仕方がない。

「今日はあなたのそばにいればいいのね?」

「妻らしい振る舞いも頼む」

 エスコートしてくれると言ったから、藍斗さんの腕に自分の腕を絡めてみる。

 一瞬、藍斗さんが身体をこわばらせるのを感じ、少し申し訳ない気持ちになった。

 彼に触れる貴重な機会だから、許される限りそのぬくもりを感じていたい。

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