お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 う、と思わず声が出てしまった。

 たしかにちょっと営業感を出しすぎていたかもしれない。

 言われてみれば『ぜひ御社とご一緒したいです!』という空気で話している人はひとりも見当たらなかった。

 ここはそういうやる気や熱意で仕事を取る場ではないようだ。

 上流階級と自分が普段いる世界の違いを実感し、恥ずかしくなる。

「ごめんなさい。こういう場での営業の仕方も勉強しておけばよかった」

「お前は勉強しないくらいがちょうどいい」

 軽く言った藍斗さんが、近くを通りかかったスタッフの手にのったトレイからグラスをふたつ取る。

 細身のグラスには金色に泡立つ飲み物が入っていた。

< 148 / 271 >

この作品をシェア

pagetop