お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 私を見ていた藍斗さんがそう言って、頬に触れてくる。

 思わず目を細めてその感触を堪能しようとすると、はっとした様子で藍斗さんが自身の手を引っこめた。

「悪い」

「どうして謝るの?」

「……これはエスコートの範疇にない行為だ」

 以前、私を押し倒して迫ったことをよほど気にしているのか、その声には罪悪感が満ちている。

 もう気にしていないと言ったのに、いつまでそうやって私を避けるつもりだろう。

 無意識に触ろうと思ったなら、その気持ちを優先して好きなだけ私を撫でてほしい。

 そんなふうに思うのもきっとアルコールのせいだ。

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