冷血悪魔な社長は愛しの契約妻を誰にも譲らない
 松田社長は首を傾げると、今度は藍斗さんにも抱きつく。

「私も妻を連れてきたんです。化粧室に行ったきり戻ってこないんですけどね。きっと知り合いを見つけて話し込んでいるんでしょう。寂しいものです」

「……とりあえず、落ち着きましょうか」

 藍斗さんが私をちらりと見て、会場の外を目で示す。

「松田社長の奥さんがいるかどうか見てきてくれ」

「あ……うん。ええ」

 いつも通りの返答をしてしまい、慌てて公的な場での取り繕った言い方に切り替える。

 藍斗さんをその場に残すのは少し不安だったけれど、わざわざ私に別行動を促したなら、ひとりで対応できるということなのだろう。

< 168 / 271 >

この作品をシェア

pagetop