冷血悪魔な社長は愛しの契約妻を誰にも譲らない
 そうしてから胸が痛くなるのを感じ、笑みを引っ込める。

 どうしたのかと聞かれたくなくてうつむきながら、館内を歩くためにスリッパを取り出した。

 付き合っていた頃のようだ――と思うなんて。

 あれはとっくに失われた時間で、またあんなひと時が戻ってくるはずないのに。

「早くしないと置いて行っちゃうよ」

「俺の準備は待たないのか。自分勝手だな」

 からかうような物言いがまた私の胸を締め付ける。

 この旅行中くらいは、素直に楽しんでもいいだろうか?

 たとえば優陽と一緒にいる時のように、よく知る友人として接すれば問題ないんじゃないかと思う。

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