冷血悪魔な社長は愛しの契約妻を誰にも譲らない
 まるで返答を準備していたかのように返されて、ぐっと言葉に詰まった。

 過去のことをちらつかせないでほしい。

 楽しくて幸せだった頃を思い出し、期待しそうになる自分がいる。

 ずっとからかわれるのも癪で、反撃に出ることにした。

「そんなに言うなら、一緒に入る? どうせそんなつもりないだろうけど――」

「悪くないな」

「えっ、嘘」

 藍斗さんが立ち上がって、畳の端に置いてあった浴衣をふたり分持ってくる。

「やめておくか?」

 試すように尋ねられ、悩んだ末に首を横に振った。

「……いいよ。一緒に入る」

 変なところでムキにならなければよかった。

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