冷血悪魔な社長は愛しの契約妻を誰にも譲らない
 第一、どうして藍斗さんも本気にするのか。

 というより、本当に一緒に露天風呂へ行く気でいるんだろうか?

 忙しなくあれこれ考えながら、激しく高鳴る胸にだけは気づかれないよう、脱衣所へ向かった。



 外はどこからともなく虫の鳴き声が聞こえ、実に風流だった。

 建物の周囲にあるのは自然だけだからか、人の声もしない。

 星がきらめく音さえ聞こえそうな、静かで穏やかな時間は心地よかった。

 ――藍斗さんと生まれたままの姿で露天風呂に入っていなければ、の話だけれど。

「遠いな」

「当たり前ですっ」

 泳げそうな広さの露天風呂の端に陣取り、藍斗さんに背を向けて縁に身体を押しつける。
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