お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 藍斗さんは片手を中途半端に浮かせた体勢のまま、目を丸くして固まっていた。

「やっぱりのぼせたんじゃないのか。顔が赤い」

「誰のせいだと思ってるの……」

 胸もとを手で隠し、身体を小さく縮こまらせながら藍斗さんを睨む。

「あなたがいると思うと落ち着かない。今だけじゃないよ。今日一日、ずっとそう。楽しかったけど、どうしたらいいかわからなかった」

 藍斗さんの眼差しが私の肌を撫でていく。

 視線の動きを感じてしまい、ぞくぞくと背中が粟立った。

「そんな目で見ないで。どうして契約夫婦なのに、こんなことをするの?」

 藍斗さんは唇を閉ざしたまま、浮いたままの手を私の頬に滑らせた。

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