お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 浮いた片手を、藍斗さんの背に回して抱き寄せる。

「キス、しないで」

「無理だ」

 唇を触れ合わせたまま、藍斗さんが熱っぽくささやいた。

「止められるわけがない」

「ん――」

 身じろぎのたびに湯舟に波が立ち、揺れる。

 以前、強引にされた時と違って彼のキスは優しかった。

 激しく奪いたがっている気配は感じるけれど、それ以上に私を包み込み、甘やかそうとしているように思う。

 それとも、目眩がするほど甘いからそんなふうに思いたいだけなのだろうか?

「っ、ん」

 素肌が触れ合い、彼の身体に擦れた。

 キスだけで高まった身体が欲張りになっている。

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