お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 もっと藍斗さんに触れられたいと全身がねだっていた。

「もうお前には触れないと決めていたのに」

 唇を触れ合わせたままささやかれ、自分からねだるようにすり寄ってしまった。

 藍斗さんは私の唇に自分のそれを押し当てると、軽く食む。

「あの夜のような真似は二度としないと……」

 彼は本当に、ずっとあの時のことを気にかけている。

 私がどれだけ気にするなと言っても、こんなに苦しそうな顔で自分を押し殺し続けているのだ。

「泣いちゃってごめんなさい」

 なにか言わなければならない気がして、藍斗さんの腕に包まれながら告げる。

「いきなりだったから怖かったの。強引だったし」

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