お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 藍斗さんが私を好きなのだとしたら、これまでの時間はなんだったのだろう。

 でも、この言葉が本当なら納得できる部分も多い。

「どうしてあなたがキスをするのかわからなかった」

「したかったからだ」

 これ以上ないほどわかりやすい答えだ。藍斗さんにしてはいささか考えなしの発言にも聞こえるほどに。

「好きならどうして、旅行先で……しなかったの?」

 質問の途中で気恥ずかしさを覚えて曖昧に濁す。

「私はあそこでもうあなたを受け入れようと思ってた。だけど引いたのは藍斗さんだよ」

< 229 / 271 >

この作品をシェア

pagetop