お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 もう二度と会わないだろうと思っていた人に願いを込め、知ったところでどうするつもりなんだと自分に問う。

 水無月社長からマイクを受け取った藍斗さんが、切れ長の目で会場を見つめた。

 艶やかな眼差しで流し見るのは彼の癖だった――。

 そんなことを思いながら、胸の前で祈るように手を組む。

「『株式会社アルスクルトゥーラ』、代表取締役の筑波藍斗です」

 その瞬間、なんの音も聞こえなくなった。

 やっぱり彼は彼だったのだと、八年前愛を交わした人だと、泣きたい気持ちになる。

 今日は優陽と楽しく過ごそうと決めていたのに、これでは藍斗さんのことしか考えられなくなってしまう。

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