お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「それ以外にもあるんですよ。うちの人間を勝手に雇って、問題を起こしてくれたそうじゃないですか。困るんですよねえ、そういうの」

 男が私と藍斗さんを見て、笑みを引っ込める。

「彼女には借金がありまして。返し終わるまでうちで働いてもらいたいんですが、かまいませんね?」

「お好きにどうぞ」

 藍斗さんが即答すると、尚美さんが絶句した。

 男は満足げにうなずき、立ち尽くす彼女の腕を引いて外へ出ようとする。

「嫌! 離しなさいよ!」

「お騒がせしてすみませんでした。それでは」

 尚美さんの抵抗をものともせずに引きずり出して行った男は、来た時と同様帰るのも一瞬だった。

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