お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 自分の中の時間がすべて止まったような気がして、声すら出てこなくなった。

「どうかしましたか?」

 再度声をかけられ、うわごとのように言う。

「あんまりにもきれいで見とれました」

「……え?」

「あっ」

 彼の訝しげな反応を受けて、ようやく意識が現実に戻ってくる。

「すっ、すみません。そんなつもりじゃなかったんです。本当にきれいなお顔だなと。あ、でも、あの、失礼でした。ごめんなさい」

 初対面の人間の容姿について、たとえ褒め言葉だろうといきなりあれこれ言うのは品がない。

 慌てて謝罪し、頭を下げると、ふっと笑うのが聞こえた。

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