お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「失礼。面と向かってそう褒められたのは初めてだ」

「そうなんですか?」

 思わず顔を上げ、尋ねてしまう。

「話しかけにくい、と思われるほうが多くてな。……名前は?」

 なにを聞かれたのかすぐには理解できなかった。

 私が口を開くのを待っているらしいと気づき、遅れて意味が追いついてくる。

「三堂円香です。数字の〝三〟に、お堂の〝同〟で三堂。円香は日本円の〝円〟に〝香り〟です」

「丁寧にどうも。筑波藍斗だ」

 慣れた手つきで名刺を差し出され、その名前を確認する。

「株式会社アルスクルトゥーラ……社長さんなんですか?」

「ああ。学生の時に起業した」

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