お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 本人としては事務仕事と経営に集中したいらしいのだけれど、まだまだ成長中の若い会社ということ、そして藍斗さん自身が営業の場に顔を出したほうが確実だという事情から、せっせと営業活動に勤しんでいるようだった。

 それを聞いてまた営業の仕事について学んでいたものの、一度だけ藍斗さんが嗅ぎ慣れない香水の匂いを漂わせて現れた時があった。

『友人がここぞという時につけると言っていたから、それだろう』

 と言っていたけれど、はたしてそれが本当だったのかどうか。

 ここで初めて私は、藍斗さんが自分自身についてあまり語らないことに気づいてしまった。

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