お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 優陽に話しかけられ、はっとそちらを見る。

「どうかしたの?」

「あー……ううん、ちょっと知ってる人に似てたからびっくりしちゃった」

 そう言ってから、付け加える。

「私と知り合いになるような人が、こんなところにいるはずないのにね」

 これだけの素晴らしいリゾート施設の創設に携わるような人との交際なんて、きっと続かなかったに違いない。

 あの頃の私はどうしようもなく子どもで、社会をなにも知らなかった。彼の役に立ちたいと学んだ数々の勉強が、重いと思われても仕方のないことだと気づけないほどに。

 住む世界が違う人なのだと、改めて藍斗さんを見つめる。

< 39 / 271 >

この作品をシェア

pagetop