お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「円香」

 優陽と話していたところに割り込んできた声は、ついさっき檀上でマイクを通して聞こえたものにそっくりだ。

 振り返りたくなくて硬直していると、横にいた優陽がそちらを見てしまう。

「筑波社長……?」

 優陽の戸惑いが、呼んだ名前に込められていた。

 なぜ、という気持ちを抑えられないまま、私も覚悟を決めて藍斗さんを振り返る。

「どうしてお前がここにいるんだ」

「それはこっちの台詞だよ。どうしてあなたが……」

 平然と返したつもりが、声が震えた。

 そこで優陽の視線に気づき、安心させるように笑いかける。

 きっと私の顔は引きつって、変な笑みになっていただろう。

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