お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 そう言うのは簡単なはずなのに、手首から伝わる彼のぬくもりが私の中に眠っていた想いを強引に引きずり出した。

 これ以上この気持ちが大きくなるのは怖い、と自分を落ち着かせるために息を吐く。

「ごめん、優陽。ちょっと抜けるね」

「気にしないで。適当に見て回っておくから。私のことはいいから、ゆっくり話してきて」

「ありがとう。ひとりにしてごめんね」

 今日は優陽と過ごすと決めていたのに。

 今からだって、藍斗さんの手を振り切って優陽といると言えばいいのに。

 それでも私は、彼を選んでしまった。

 ――ごめんね。本当にごめんなさい。

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