お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 唇を引き結んで首を横に振る。

 彼の名前を見ただけでつらくなるから、極力避けて生活してきたのだ。

 ホテル事業のニュースは見ないようにしたし、仕事だって関係しそうな場所は選ばず就職した。彼の役に立てたらいいと学んだことのすべてが、就職で役立ったのは皮肉である。

「ここに来たのは、たまたま抽選が当たったから。それ以外の理由はないの」

「……一般抽選の倍率は一万倍を超えている。その確率を引き当てたというのか」

「裏技でも使ったと思うの? あなたと付き合っているならまだしも、今は……なんの関係もないのに」

 ずっと無表情だった藍斗さんが初めて表情を動かした。

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