お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「老後に向けて、二千万から三千万貯金しておけば安心だって言うでしょ? だからそのくらいあれば、悠々自適な人生を送れるんじゃないかと思って」

 不意に藍斗さんが不思議そうな顔をした。

 そして私の左手に視線を向け、自嘲気味な笑みを浮かべる。

「先に結婚しているかどうか聞き忘れていた。結婚どころか、恋人もいないんだな」

「どうして、そんなこと」

「今のは一生独身でいるつもりの言葉だろう」

 見透かされていて苦い気持ちになる。

 別にそれを彼に知られたところで、どうというわけでもないけれど。

「あなたにとっては都合のいい話だよね」

「……ああ。だから五千万用意する」

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