お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「どうせわけありの結婚なんじゃないの? だってあなたには愛してる人がいるんだから」

 ただでさえ縮み上がっていた心臓が、そのひと言でぎゅっと締め付けられて嫌な痛みを訴えてきた。

 藍斗さんが自分で言うなら、そういう嘘で誤魔化そうとしているのだろうと理解できる。

 だけど彼女が言うのはまた話が別だった。

「それが円香だ」

「嘘。だってそんな人と付き合ってるなんて、聞いたこともない」

「言っていないんだから当たり前だろう」

「言わなくてもわかることってあるんだから」

 意味深に言うと、尚美さんは私に向かってにっこりと笑った。

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