お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
「そういうところを放っておけなくてプロポーズしたんだ。思い切り泣きたい時は泣かせてやるし、うれしくてはしゃぎたい時も受け止めてやる。俺以外に円香に付き合える男はいない」

 泣きたくないのに泣きそうだった。

 彼は八年前にも似たようなことを言って、『だから俺以外の男に近づくな』と独占欲をにじませていたから。

 あの時と同じ気持ちであるはずがないのに、ほんの一瞬だけ期待してしまった。

 彼が望んでいるのは愛のない結婚。

 今の言葉はかつて私と交際していた時に抱いた感情を、心の引き出しから取り出しただけだろう。

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