お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 若気の至りと呼ぶしかない出来事を気恥ずかしく思い、話を逸らそうとする。

「さっき私について話したでしょ。辛いものが好きとか、酸っぱいものが嫌いとか。あれもよく覚えてたね」

「一度聞けば大抵頭に入るだろう。取引先の顔と名前を一致させるのと変わらない」

 それもそうかと納得し、藍斗さんから助手席の窓に視線を移した。

 なんでもないことのように言うけれど、彼はきちんと努力をして情報を頭に叩き込むのを知っている。

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