お飾り妻のはずが、冷徹社長は離婚する気がないようです
 義実家より近いとはいえ、結局自宅からは一時間ほどかかってしまった。

「結婚報告をするにあたって、気をつけなければならないことは?」

「いつも通りで大丈夫。……あなたのことを知っているから」

 懐かしい実家の玄関を開けると、慌てたように母がやってきた。

 そして藍斗さんを見上げて目を丸くする。

「初めまして、円香の母です……」

 うわごとのようにぼんやりとした顔のまま言った母を、軽く小突いた。

「どうしたの。もっとはしゃぐかと思ったのに」

「だってこんなかっこいい旦那さんを連れてくるなんて聞いてない。こんな素敵な人だって知ってたら、もっと気合いを入れてお化粧しておくんだった」
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