魔力が強すぎる死にかけ公爵は、魔力ゼロの出来損ない王女をご所望です
第十八話 手紙とティータイム
「あ、あの…ソフィア様にこちらが…」
「なあに?あら、お手紙!イリアム様かしら?」
イリアム様が遠征に出て、今日でちょうど一月。
幸いイリアム様からの手紙はしっかり一週間ごとに私の元へと届けられていた。
最後の手紙かしら?と浮き足立つ私に対し、手紙を持って来てくれた侍女の表情は晴れない。
――まさか、イリアム様に何かあったの?
僅かに心がざわめくけれど、私宛の手紙を公爵家の人間が勝手に検めることはない。
引っ掛かりを感じつつも、トレイに乗せられた手紙を受け取る。手紙をひっくり返して送り主の名前を確認した私の表情は強張った。
――ガーネット・ルイ・マルセイユ。
そこには金色の文字でそう記されていた。
その名を決して忘れることはない。
――第二王女であり、私の実の姉、なのだから。
王家の中でもとりわけ私を虐げて来たのがガーネットお姉様だった。
ガーネットお姉様は魔法の腕に秀でていて、いつも魔法が使えない私を見下していた。両親や使用人がいないところでキツく当たられることは日常茶飯事だった。
八歳のあの日、魔力なしの烙印を押された私を慰めることもなく、罵詈雑言を浴びせたのもガーネットお姉様が筆頭だった。
『愚図』『出来損ない』『血が繋がっているなんて悍ましい』『あんたなんか居なくなればいいのに』『価値のない子』『目の前から消えてちょうだい』
浴びせられた言葉の暴力は尚も胸を深く抉りとる。
お姉様の名前を見ただけで、心の奥深くに閉じ込めていた嫌な記憶が蘇るようで、ぶるりと身震いをした。
「あ、あの、ソフィア様…」
手紙の送り主を見て固まった私を案じるように、遠慮がちに声をかけられてハッと我に返った。
「大丈夫よ、ありがとう。部屋でゆっくり読むわ」
精一杯の笑顔で答えると、侍女は心配そうに何度も振り返りながら去って行った。
私は彼女の姿が見なくなってから、脱力するように深いため息を吐いた。その拍子に少しよろけてしまい、後ろで控えていたジェイルに肩を支えられた。
「姫さん、大丈夫か?」
「ええ、ありがとう……今更何の用なのかしら」
側で様子を見ていたジェイルにも、送り主の名前は見えたはず。心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
私はふにゃりと笑って手元の手紙に視線を落とす。改めて見ると、王家の紋で封蝋されていた。
「ちょっと…一人で読む勇気がないわ。イリアム様が戻られてから、一緒に読むことにする」
「ああ、そうするといい」
私は自室に戻って机の引き出しに手紙をしまった。
ガーネットお姉様の名前を見ただけでこれほど気分が沈むとは思わなかった。離宮から出たとはいえ、私が第三王女であり、彼女の妹であることには変わりはないものね…
心が重い。
決して断つことはできない繋がりが、鎖のように心に絡みついているようだ。
「イリアム様……」
何だか無性にイリアム様に会いたい。
私を必要としてくれて、優しく接してくれて、温かな気持ちをくれるあの人に――
しばらく椅子に座ってボーッと窓の外を眺めていると、コンコンと扉がノックされた。
「ソフィア様」
「エブリン、入って」
ノックの主はエブリンだった。扉を開けて入ってきた彼女はニッコリ微笑むと、私の手を取った。
「ソフィア様、中庭にお茶とお菓子を用意しました。本日はお天気もいいですし、外でティータイムといきましょう」
「まあ、素敵ね!」
扉の方に目をやると、チラチラとジェイルがこちらを見ていた。
きっと彼が落ち込む私を元気付けるためにエブリンに相談してくれたのね。二人の優しさが胸に沁みる。
私はいつまでもクヨクヨしていられないと勢いよく立ち上がり、二人と共に中庭へ向かった。
「なあに?あら、お手紙!イリアム様かしら?」
イリアム様が遠征に出て、今日でちょうど一月。
幸いイリアム様からの手紙はしっかり一週間ごとに私の元へと届けられていた。
最後の手紙かしら?と浮き足立つ私に対し、手紙を持って来てくれた侍女の表情は晴れない。
――まさか、イリアム様に何かあったの?
僅かに心がざわめくけれど、私宛の手紙を公爵家の人間が勝手に検めることはない。
引っ掛かりを感じつつも、トレイに乗せられた手紙を受け取る。手紙をひっくり返して送り主の名前を確認した私の表情は強張った。
――ガーネット・ルイ・マルセイユ。
そこには金色の文字でそう記されていた。
その名を決して忘れることはない。
――第二王女であり、私の実の姉、なのだから。
王家の中でもとりわけ私を虐げて来たのがガーネットお姉様だった。
ガーネットお姉様は魔法の腕に秀でていて、いつも魔法が使えない私を見下していた。両親や使用人がいないところでキツく当たられることは日常茶飯事だった。
八歳のあの日、魔力なしの烙印を押された私を慰めることもなく、罵詈雑言を浴びせたのもガーネットお姉様が筆頭だった。
『愚図』『出来損ない』『血が繋がっているなんて悍ましい』『あんたなんか居なくなればいいのに』『価値のない子』『目の前から消えてちょうだい』
浴びせられた言葉の暴力は尚も胸を深く抉りとる。
お姉様の名前を見ただけで、心の奥深くに閉じ込めていた嫌な記憶が蘇るようで、ぶるりと身震いをした。
「あ、あの、ソフィア様…」
手紙の送り主を見て固まった私を案じるように、遠慮がちに声をかけられてハッと我に返った。
「大丈夫よ、ありがとう。部屋でゆっくり読むわ」
精一杯の笑顔で答えると、侍女は心配そうに何度も振り返りながら去って行った。
私は彼女の姿が見なくなってから、脱力するように深いため息を吐いた。その拍子に少しよろけてしまい、後ろで控えていたジェイルに肩を支えられた。
「姫さん、大丈夫か?」
「ええ、ありがとう……今更何の用なのかしら」
側で様子を見ていたジェイルにも、送り主の名前は見えたはず。心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
私はふにゃりと笑って手元の手紙に視線を落とす。改めて見ると、王家の紋で封蝋されていた。
「ちょっと…一人で読む勇気がないわ。イリアム様が戻られてから、一緒に読むことにする」
「ああ、そうするといい」
私は自室に戻って机の引き出しに手紙をしまった。
ガーネットお姉様の名前を見ただけでこれほど気分が沈むとは思わなかった。離宮から出たとはいえ、私が第三王女であり、彼女の妹であることには変わりはないものね…
心が重い。
決して断つことはできない繋がりが、鎖のように心に絡みついているようだ。
「イリアム様……」
何だか無性にイリアム様に会いたい。
私を必要としてくれて、優しく接してくれて、温かな気持ちをくれるあの人に――
しばらく椅子に座ってボーッと窓の外を眺めていると、コンコンと扉がノックされた。
「ソフィア様」
「エブリン、入って」
ノックの主はエブリンだった。扉を開けて入ってきた彼女はニッコリ微笑むと、私の手を取った。
「ソフィア様、中庭にお茶とお菓子を用意しました。本日はお天気もいいですし、外でティータイムといきましょう」
「まあ、素敵ね!」
扉の方に目をやると、チラチラとジェイルがこちらを見ていた。
きっと彼が落ち込む私を元気付けるためにエブリンに相談してくれたのね。二人の優しさが胸に沁みる。
私はいつまでもクヨクヨしていられないと勢いよく立ち上がり、二人と共に中庭へ向かった。