魔力が強すぎる死にかけ公爵は、魔力ゼロの出来損ない王女をご所望です
第二十八話 謁見と決別①
会場中の視線が玉座に集まる。
金管楽器が鳴り止むと、玉座の奥に備えられた扉から、金ピカの宝石に彩られたふくよかな男性と、内巻きのブロンドヘアが特徴的な女性が姿を現した。国王と王妃である。
さらに二人の後ろから、対極の髪色をした女性が現れた。一人は青空のような真っ青な髪、もう一人は燃えるような真っ赤な髪。第一王女のマーガレットお姉様と、第二王女のガーネットお姉様だ。
私は四人の姿を目にして一瞬喉の奥に何かが詰まったように呼吸が止まった。ヒュッヒュッと肺が空気を求めて渇いた音を出した。
私の呼吸が乱れたとすぐに気づいたイリアム様が引き寄せるように肩を抱いてくれる。いつもの温もりに包まれて少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと胸に詰まった息を吐き出してようやく酸素を吸うことができた。
私の血を分けた家族。そして、私を出来損ないだと切り捨てて離宮へ閉じ込めた人たち。
記憶の中よりも父と母は随分と歳を重ね、姉たちは少女から可憐な女性へと変貌を遂げていた。
――それもそうか。十年ぶりだものね。
私は密かに自嘲した。もし街でバッタリ会ってもすぐには分からない程には違う時間を歩んできたのだ。
国王であるお父様は、慰労会の主役である騎士団に何か言葉を贈るでもなく、ウエイターに何やら指示を出している。
王妃であるお母様は、忙しなくクルクルと指で内巻きのブロンドの髪を弄っている。
マーガレットお姉様は、唇に指を当てて会場の円卓に並ぶ料理をうっとりと眺めている。
そして、ガーネットお姉様は――
「っ!」
こちらに鋭い視線を投げ、真っ赤に塗られた唇を頬が裂けるのではと思うほど吊り上げた。蛇に睨まれた蛙のように、身体が萎縮する。
それも一瞬のことで、すぐにガーネットお姉様は視線を外してマーガレットお姉様と談笑を始めた。
間も無く王族たちの前にテーブルが用意され、続けて溢れんばかりの料理が運ばれていく。そして四人は躊躇うことなく料理に手を伸ばして食事を始めた。
「あ、あの……何か労いの言葉はないのでしょうか?それにあの場所は食事をするには不向きなように思えるのですが…そもそも玉座で食事をするものなのですか?」
あまりの光景に呆気に取られた私は、イリアム様の服の裾を引いて耳元で小さく尋ねた。イリアム様は「ああ…」と呆れたように吐息を漏らし、ゆるゆると首を振った。
「そんな気の利いたことを奴らがすると思うか?おかしいだろう?国のために走り回った騎士を労うでもなく、来場の礼すらない。あいつらが興味があるのは目の前のご馳走だけだ。見てみるといい、来賓たちもみんな奴らに何の期待もしていない」
玉座から視線を外して周りを見回すと、誰も彼も呆れた顔をして、自分たちの食事や談笑に戻っていた。何人かは玉座に向かって国王に一言二言挨拶をしているようだが、国王は食事の手を止める様子はない。
「で、団長も挨拶に行くのか?」
「……行きたくもないし行く必要も感じないがな。騎士団を率いるものとして形だけでも挨拶に行かねばなるまい」
「だよなあ。俺も行くかあ」
マリクさんは煩わしそうにボリボリ頭を掻くと、パラパラとまばらに出来た列に並びに行った。
「ソフィア。俺は一応一声だけ挨拶に行くが、ここで待っているか?」
イリアム様が窺うように尋ねてくれる。
行くか行かないか私に選ばせてくれるんだわ。
私はギュッと固く両手を握り、首を振った。
「いいえ、一緒に参ります」
「……分かった。ソフィアは俺が守る。何があっても側を離れるんじゃないぞ」
「はい」
イリアム様は私の肩を抱いていた手を解き、再び手を握ってくれた。謁見のための列の最後尾に並ぶ。十名も並んでいないから、すぐに順番は回ってくるだろう。
一人、二人と列を離れて行くたびにバクバクと心音が大きくなっていった。
そしていよいよマリクさんの挨拶が終わり、私たちの順番が回って来た。
金管楽器が鳴り止むと、玉座の奥に備えられた扉から、金ピカの宝石に彩られたふくよかな男性と、内巻きのブロンドヘアが特徴的な女性が姿を現した。国王と王妃である。
さらに二人の後ろから、対極の髪色をした女性が現れた。一人は青空のような真っ青な髪、もう一人は燃えるような真っ赤な髪。第一王女のマーガレットお姉様と、第二王女のガーネットお姉様だ。
私は四人の姿を目にして一瞬喉の奥に何かが詰まったように呼吸が止まった。ヒュッヒュッと肺が空気を求めて渇いた音を出した。
私の呼吸が乱れたとすぐに気づいたイリアム様が引き寄せるように肩を抱いてくれる。いつもの温もりに包まれて少し落ち着きを取り戻し、ゆっくりと胸に詰まった息を吐き出してようやく酸素を吸うことができた。
私の血を分けた家族。そして、私を出来損ないだと切り捨てて離宮へ閉じ込めた人たち。
記憶の中よりも父と母は随分と歳を重ね、姉たちは少女から可憐な女性へと変貌を遂げていた。
――それもそうか。十年ぶりだものね。
私は密かに自嘲した。もし街でバッタリ会ってもすぐには分からない程には違う時間を歩んできたのだ。
国王であるお父様は、慰労会の主役である騎士団に何か言葉を贈るでもなく、ウエイターに何やら指示を出している。
王妃であるお母様は、忙しなくクルクルと指で内巻きのブロンドの髪を弄っている。
マーガレットお姉様は、唇に指を当てて会場の円卓に並ぶ料理をうっとりと眺めている。
そして、ガーネットお姉様は――
「っ!」
こちらに鋭い視線を投げ、真っ赤に塗られた唇を頬が裂けるのではと思うほど吊り上げた。蛇に睨まれた蛙のように、身体が萎縮する。
それも一瞬のことで、すぐにガーネットお姉様は視線を外してマーガレットお姉様と談笑を始めた。
間も無く王族たちの前にテーブルが用意され、続けて溢れんばかりの料理が運ばれていく。そして四人は躊躇うことなく料理に手を伸ばして食事を始めた。
「あ、あの……何か労いの言葉はないのでしょうか?それにあの場所は食事をするには不向きなように思えるのですが…そもそも玉座で食事をするものなのですか?」
あまりの光景に呆気に取られた私は、イリアム様の服の裾を引いて耳元で小さく尋ねた。イリアム様は「ああ…」と呆れたように吐息を漏らし、ゆるゆると首を振った。
「そんな気の利いたことを奴らがすると思うか?おかしいだろう?国のために走り回った騎士を労うでもなく、来場の礼すらない。あいつらが興味があるのは目の前のご馳走だけだ。見てみるといい、来賓たちもみんな奴らに何の期待もしていない」
玉座から視線を外して周りを見回すと、誰も彼も呆れた顔をして、自分たちの食事や談笑に戻っていた。何人かは玉座に向かって国王に一言二言挨拶をしているようだが、国王は食事の手を止める様子はない。
「で、団長も挨拶に行くのか?」
「……行きたくもないし行く必要も感じないがな。騎士団を率いるものとして形だけでも挨拶に行かねばなるまい」
「だよなあ。俺も行くかあ」
マリクさんは煩わしそうにボリボリ頭を掻くと、パラパラとまばらに出来た列に並びに行った。
「ソフィア。俺は一応一声だけ挨拶に行くが、ここで待っているか?」
イリアム様が窺うように尋ねてくれる。
行くか行かないか私に選ばせてくれるんだわ。
私はギュッと固く両手を握り、首を振った。
「いいえ、一緒に参ります」
「……分かった。ソフィアは俺が守る。何があっても側を離れるんじゃないぞ」
「はい」
イリアム様は私の肩を抱いていた手を解き、再び手を握ってくれた。謁見のための列の最後尾に並ぶ。十名も並んでいないから、すぐに順番は回ってくるだろう。
一人、二人と列を離れて行くたびにバクバクと心音が大きくなっていった。
そしていよいよマリクさんの挨拶が終わり、私たちの順番が回って来た。