魔力が強すぎる死にかけ公爵は、魔力ゼロの出来損ない王女をご所望です
第三話 ソフィアの事情
二日後、早速ラインザック公爵様が離宮にやってきた。
「あなたにこれを」
「わあ…ありがとうございます!」
出迎えた私に公爵様が差し出したのは、両手で抱えきれないほど大きな花束だった。
淡い黄色の花に、優しい水色の花、ポピーやコスモスに薔薇といったいろんな種類の花々が金色のリボンで綺麗にまとめられている。
それにしても花束と公爵様の図が美しすぎて、王子様が降臨されたのかと思わず見惚れてしまった。公爵様の顔色もすっかり良くなっていてホッとする。
「あなたの淡いブロンドの髪と瞳の色をイメージして作らせた。気に入ってくれたら嬉しい」
「はいっ!とても嬉しいです!花束なんていただいたのは生まれて初めてです」
「初めて……?」
私の言葉に、公爵様は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。あっ、と思わず口をつぐんで苦笑いを返すけれど、公爵様の眉間の皺は深くなるばかり。
きっと色々と聞きたいことがあるわよね…口を開いては閉じ、を繰り返して言葉を探している様子だもの。
ともかくここは玄関なので、身の上話をするにしても場所を移さなくてはならない。
「よろしければ客間へどうぞ。ご案内します」
「あ、ああ。感謝する」
戸惑う公爵様を連れて、私はジェイルと共に客間へと向かった。
花束はエブリンに渡して、自室に飾ってもらうようにお願いした。「お任せください!」とふんすと鼻息荒く張り切っていたので、きっと綺麗に飾り付けしてくれるだろう。初めての贈り物だとはいえ、あまりの張り切りように思わず笑ってしまった。
客間に着くと、既に侍女のみんなが茶菓子やお茶の用意をしてくれていた。
「みんな、ありがとう!下がっていいわよ」
私がそう言うと、侍女たちは並んでぺこりと頭を下げて客間から退室した。みんなチラチラと公爵様に熱い視線を向けている。素敵だものね、仕方がない。
「ラインザック公爵様、どうぞ」
「ああ、失礼する」
私たちはテーブルを挟んで向かい合わせに置かれたソファにそれぞれ腰掛けた。ジェイルは私の後方で手を後ろに組んで仁王立ちしている。
公爵様は紅茶を口に含み、一呼吸ついてから話し始めた。
「あなたは……ソフィア王女様、で間違いないのだろうか」
「ええ、そうよ」
問いかけに肯定すると、公爵様は唸り声をあげて俯いてしまった。
また体調が悪くなったのかと少しどきどきしながら様子を窺っていると、公爵様はため息をついて顔を上げた。
憂いを帯びた表情で、藍色の髪が深く碧い瞳にかかっている。近くでお姿を見るのは一昨日が初めてだったけれど、公爵様はスラリとした長身で、身体は程よく引き締まり、凛々した顔立ちも相まって魅力に溢れた殿方だった。要するにとびきりの美丈夫。
「ソフィア王女様は、重い病に臥せり……遠い異国の地で療養されていると、公には言われている」
重々しい口を開いて発せられた言葉に、私は目を丸くする。
「まあ、そうなのですね。もう十年も離宮で暮らしておりますので、お恥ずかしながら外の情勢には疎いのです。家族…ともずっと会っておりません」
「家族……君を一人離れた場所に閉じ込めて、周囲から隠し会おうともしない奴らを家族と言えるのか」
苦しそうな公爵様の問いかけに、顎に指を当てて考える。
「うーん、正直に申しますと、家族の情…はありません。私にとってはこの離宮のみんなが家族のようなものです。王家は出来損ないの私を公にしたくないのでしょうね……まあ、悲しくないかと言われると肯定はできませんが、最低限の教育と生活は保証してくれておりますし、それほど不自由はしていないのですよ?」
努めて笑顔で話していたけれど、話せば話すほど公爵様は悲痛な表情になっていく。ああ、別に同情されたいわけではないのに…
とうとう公爵様は深く深くため息をついてしまった。
「いや……むしろあの王家と離れて生活できているのは喜ばしいことかもしれんな。虐げられているにも関わらずこれほど真っ直ぐに心美しく育っているのは、あなた元来の純粋さと…周りの者達のおかげ、か」
私の後ろに視線を投げた公爵様。
ん?と振り返ると得意げな顔をしたジェイルと目が合った。
「あなたはいい意味で他の王族とは全く違う。同じ血を分けているのが不思議でならない。まるで別の生き物だ」
「?はあ…」
公爵様の言葉の意図が分からずに曖昧に頷いてしまった。
実を言うと、あまり家族のことは記憶にない。元々期待されていなかった私に、家族は必要以上に絡むことはなかったから。そして八歳になったあの日、魔力の測定を受けて間も無くこの離宮に送られた。
「いや、すまない。この話はやめておこう。それで……その、そもそも何故あなたはこの離宮で暮らしておられるのか?」
「ああ、それは……」
公爵様の問いを受け、私はカップを手に取り紅茶を口に含んだ。ちょっぴり冷めてしまった紅茶をごくりと飲み込み、カップをソーサーに戻すと、ニコリと笑って答えた。
「私に魔力がないからです」
「あなたにこれを」
「わあ…ありがとうございます!」
出迎えた私に公爵様が差し出したのは、両手で抱えきれないほど大きな花束だった。
淡い黄色の花に、優しい水色の花、ポピーやコスモスに薔薇といったいろんな種類の花々が金色のリボンで綺麗にまとめられている。
それにしても花束と公爵様の図が美しすぎて、王子様が降臨されたのかと思わず見惚れてしまった。公爵様の顔色もすっかり良くなっていてホッとする。
「あなたの淡いブロンドの髪と瞳の色をイメージして作らせた。気に入ってくれたら嬉しい」
「はいっ!とても嬉しいです!花束なんていただいたのは生まれて初めてです」
「初めて……?」
私の言葉に、公爵様は怪訝そうに眉間に皺を寄せた。あっ、と思わず口をつぐんで苦笑いを返すけれど、公爵様の眉間の皺は深くなるばかり。
きっと色々と聞きたいことがあるわよね…口を開いては閉じ、を繰り返して言葉を探している様子だもの。
ともかくここは玄関なので、身の上話をするにしても場所を移さなくてはならない。
「よろしければ客間へどうぞ。ご案内します」
「あ、ああ。感謝する」
戸惑う公爵様を連れて、私はジェイルと共に客間へと向かった。
花束はエブリンに渡して、自室に飾ってもらうようにお願いした。「お任せください!」とふんすと鼻息荒く張り切っていたので、きっと綺麗に飾り付けしてくれるだろう。初めての贈り物だとはいえ、あまりの張り切りように思わず笑ってしまった。
客間に着くと、既に侍女のみんなが茶菓子やお茶の用意をしてくれていた。
「みんな、ありがとう!下がっていいわよ」
私がそう言うと、侍女たちは並んでぺこりと頭を下げて客間から退室した。みんなチラチラと公爵様に熱い視線を向けている。素敵だものね、仕方がない。
「ラインザック公爵様、どうぞ」
「ああ、失礼する」
私たちはテーブルを挟んで向かい合わせに置かれたソファにそれぞれ腰掛けた。ジェイルは私の後方で手を後ろに組んで仁王立ちしている。
公爵様は紅茶を口に含み、一呼吸ついてから話し始めた。
「あなたは……ソフィア王女様、で間違いないのだろうか」
「ええ、そうよ」
問いかけに肯定すると、公爵様は唸り声をあげて俯いてしまった。
また体調が悪くなったのかと少しどきどきしながら様子を窺っていると、公爵様はため息をついて顔を上げた。
憂いを帯びた表情で、藍色の髪が深く碧い瞳にかかっている。近くでお姿を見るのは一昨日が初めてだったけれど、公爵様はスラリとした長身で、身体は程よく引き締まり、凛々した顔立ちも相まって魅力に溢れた殿方だった。要するにとびきりの美丈夫。
「ソフィア王女様は、重い病に臥せり……遠い異国の地で療養されていると、公には言われている」
重々しい口を開いて発せられた言葉に、私は目を丸くする。
「まあ、そうなのですね。もう十年も離宮で暮らしておりますので、お恥ずかしながら外の情勢には疎いのです。家族…ともずっと会っておりません」
「家族……君を一人離れた場所に閉じ込めて、周囲から隠し会おうともしない奴らを家族と言えるのか」
苦しそうな公爵様の問いかけに、顎に指を当てて考える。
「うーん、正直に申しますと、家族の情…はありません。私にとってはこの離宮のみんなが家族のようなものです。王家は出来損ないの私を公にしたくないのでしょうね……まあ、悲しくないかと言われると肯定はできませんが、最低限の教育と生活は保証してくれておりますし、それほど不自由はしていないのですよ?」
努めて笑顔で話していたけれど、話せば話すほど公爵様は悲痛な表情になっていく。ああ、別に同情されたいわけではないのに…
とうとう公爵様は深く深くため息をついてしまった。
「いや……むしろあの王家と離れて生活できているのは喜ばしいことかもしれんな。虐げられているにも関わらずこれほど真っ直ぐに心美しく育っているのは、あなた元来の純粋さと…周りの者達のおかげ、か」
私の後ろに視線を投げた公爵様。
ん?と振り返ると得意げな顔をしたジェイルと目が合った。
「あなたはいい意味で他の王族とは全く違う。同じ血を分けているのが不思議でならない。まるで別の生き物だ」
「?はあ…」
公爵様の言葉の意図が分からずに曖昧に頷いてしまった。
実を言うと、あまり家族のことは記憶にない。元々期待されていなかった私に、家族は必要以上に絡むことはなかったから。そして八歳になったあの日、魔力の測定を受けて間も無くこの離宮に送られた。
「いや、すまない。この話はやめておこう。それで……その、そもそも何故あなたはこの離宮で暮らしておられるのか?」
「ああ、それは……」
公爵様の問いを受け、私はカップを手に取り紅茶を口に含んだ。ちょっぴり冷めてしまった紅茶をごくりと飲み込み、カップをソーサーに戻すと、ニコリと笑って答えた。
「私に魔力がないからです」