魔力が強すぎる死にかけ公爵は、魔力ゼロの出来損ない王女をご所望です
第三十二話 誘う声(ガーネット視点)
『ガーネットや、ちょいとやりすぎじゃ。流石に形ばかりでも処罰せんと体裁が悪いからのう。数日部屋で大人しくしておるのじゃ』
お父様にそう言われて、私は自室で謹慎処分となった。
ベッドに身を投げ出して天井を睨みつける。何度も何度もあの時のことが脳裏に浮かんでは、怒りに身が焼けそうになる。
私の思い通りにならないイリアムを炎で焼いてやった時は胸がスッとした。ただただ楽しくて、あの愚図の絶望した顔が滑稽で笑いが止まらなかった。
楽しくて仕方がなかったのに、なぜか私の炎が一瞬で消え失せた。焼け爛れたはずのイリアムの肌も、火傷の後は見る影もなかった。
一体何が起きたの?
イリアムの決死の魔法が発動した?
何にせよあの二人のせいで、私は衛兵に連行されるという屈辱を経験したのよ!?
ギリッと歯を食いしばると微かに血の味がした。
見つめ合う二人の顔を見た時、吐き気がした。
慈しみ合い、まるで愛し合っているかのような視線。
――イリアムが私に向けたことのない甘い視線。
憎い、憎い憎い憎い――!!
魔力もない出来損ないのくせに!落ちこぼれのくせに!王家の恥であるはずなのに!どうしてあそこまでイリアムに愛されているというの!
十年ぶりに見たあの女は、離宮に追いやられて絶望の中育ったはずなのに、肌は艶やかで、スラリと程よく実った身体、絹糸のような繊細な髪をしていて、見るからに心身共に健康そのものだった。相変わらず色素の薄い瞳の色は、未だに魔力がないことを物語っていて笑えたけど!
――もっと、もっと絶望した顔を見せなさい。
私が優れていると、優越感に浸る贄となりなさい。
私が愉悦に浸る材料となれることを泣いて喜びなさい!
それだけがあんたの存在意義なんだから!!
幼い頃から何の取り柄もないあの子の姿に、いつも優越感に浸っていた。あの出来損ないの愚図と比べて私は魔力も強くて優秀で、お父様やお母様からも愛されていると。
それなのに――
「そうよ…なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの?あの愚図にもっと、もっともっと苦しみを味わわせてやらないと気が済まない!」
バンバンと怒りに任せて枕を叩きつけると、超高級の羽毛がベッドの上に舞い踊る。
私の荒れ狂った心と裏腹に、目の前ではらはら舞う羽毛は天使が戯れているかのようで神経を逆撫でする。
「燃えろ!」
私は細やかな魔力操作で羽毛だけを素早く焼き尽くした。
『………………………………イ、カ?』
「……何?」
じじじ…と全ての羽毛が燃え尽きた時、頭の中に直接響くような、そんな重々しい声がした気がした。
誰か見張りでも隠れているのかと、苛立たしくて部屋を見回すも、誰の姿も見えない。
『………………憎イカ?』
今度はもっとハッキリと、その声が聞こえた。
「……誰よ。何処にいるの。隠れてないで出てきなさいよ!!」
姿の見えない声が不気味で、不快で、私は叫ぶように問いかけて、手当たり次第枕を投げつけた。
『…………………………ククククク、見、ツケ、タ』
低く低く、腹の底に響く笑い声。
ぞわりと背筋が身の毛立つ。
ふと足元を見ると、どろりと濃色の影が集まって来ていた。
「ひいっ!な、何よこれ!」
ジタバタと足を動かせども、染み込むように私の影に入り込んでいく。
「……?」
未知の恐怖に身体を丸めて蹲ったけれど、身に危険は及ばなかった。気分も悪くないし、むしろ今なら何でもできるような、そんな高揚感に包まれている。
「うふ、うふふふふ。そうよ、全部壊せばいいのよ。私の思い通りにいかないものは、全部!!」
私は両手を広げて天を仰いだ。高笑いが止まらない。
「あは、あははは!あははははははっ!!」
影の境界線がドロドロと形を崩し、心地の良い闇が広がっていった。
お父様にそう言われて、私は自室で謹慎処分となった。
ベッドに身を投げ出して天井を睨みつける。何度も何度もあの時のことが脳裏に浮かんでは、怒りに身が焼けそうになる。
私の思い通りにならないイリアムを炎で焼いてやった時は胸がスッとした。ただただ楽しくて、あの愚図の絶望した顔が滑稽で笑いが止まらなかった。
楽しくて仕方がなかったのに、なぜか私の炎が一瞬で消え失せた。焼け爛れたはずのイリアムの肌も、火傷の後は見る影もなかった。
一体何が起きたの?
イリアムの決死の魔法が発動した?
何にせよあの二人のせいで、私は衛兵に連行されるという屈辱を経験したのよ!?
ギリッと歯を食いしばると微かに血の味がした。
見つめ合う二人の顔を見た時、吐き気がした。
慈しみ合い、まるで愛し合っているかのような視線。
――イリアムが私に向けたことのない甘い視線。
憎い、憎い憎い憎い――!!
魔力もない出来損ないのくせに!落ちこぼれのくせに!王家の恥であるはずなのに!どうしてあそこまでイリアムに愛されているというの!
十年ぶりに見たあの女は、離宮に追いやられて絶望の中育ったはずなのに、肌は艶やかで、スラリと程よく実った身体、絹糸のような繊細な髪をしていて、見るからに心身共に健康そのものだった。相変わらず色素の薄い瞳の色は、未だに魔力がないことを物語っていて笑えたけど!
――もっと、もっと絶望した顔を見せなさい。
私が優れていると、優越感に浸る贄となりなさい。
私が愉悦に浸る材料となれることを泣いて喜びなさい!
それだけがあんたの存在意義なんだから!!
幼い頃から何の取り柄もないあの子の姿に、いつも優越感に浸っていた。あの出来損ないの愚図と比べて私は魔力も強くて優秀で、お父様やお母様からも愛されていると。
それなのに――
「そうよ…なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの?あの愚図にもっと、もっともっと苦しみを味わわせてやらないと気が済まない!」
バンバンと怒りに任せて枕を叩きつけると、超高級の羽毛がベッドの上に舞い踊る。
私の荒れ狂った心と裏腹に、目の前ではらはら舞う羽毛は天使が戯れているかのようで神経を逆撫でする。
「燃えろ!」
私は細やかな魔力操作で羽毛だけを素早く焼き尽くした。
『………………………………イ、カ?』
「……何?」
じじじ…と全ての羽毛が燃え尽きた時、頭の中に直接響くような、そんな重々しい声がした気がした。
誰か見張りでも隠れているのかと、苛立たしくて部屋を見回すも、誰の姿も見えない。
『………………憎イカ?』
今度はもっとハッキリと、その声が聞こえた。
「……誰よ。何処にいるの。隠れてないで出てきなさいよ!!」
姿の見えない声が不気味で、不快で、私は叫ぶように問いかけて、手当たり次第枕を投げつけた。
『…………………………ククククク、見、ツケ、タ』
低く低く、腹の底に響く笑い声。
ぞわりと背筋が身の毛立つ。
ふと足元を見ると、どろりと濃色の影が集まって来ていた。
「ひいっ!な、何よこれ!」
ジタバタと足を動かせども、染み込むように私の影に入り込んでいく。
「……?」
未知の恐怖に身体を丸めて蹲ったけれど、身に危険は及ばなかった。気分も悪くないし、むしろ今なら何でもできるような、そんな高揚感に包まれている。
「うふ、うふふふふ。そうよ、全部壊せばいいのよ。私の思い通りにいかないものは、全部!!」
私は両手を広げて天を仰いだ。高笑いが止まらない。
「あは、あははは!あははははははっ!!」
影の境界線がドロドロと形を崩し、心地の良い闇が広がっていった。