魔力が強すぎる死にかけ公爵は、魔力ゼロの出来損ない王女をご所望です
第四十一話 戸惑い(エブリン目線)
「ああ……ソフィア様、大丈夫かしら」
「大丈夫だって、信じて待とうぜ」
「え、ええ……」
ソフィア様とイリアム様の様子を見守るために、ジェイルに半ば強引に街に連れ出された私は今、診療所の側の物陰にいる。
お二人は広場で人助けをした後に、その人を支えるようにしてどこかへ向かった。
そして辿り着いたのがこの場所だった。
中に入ってからかなりの時間が経つが、一向に出てくる気配がなくて、私は痺れを切らしてソワソワし始めていた。
それにしてもさっき噴水の広場で起こった出来事は一体なんだったのかしら?
急に女性が苦しみ倒れた時には、きっと魔力の暴走だろうとすぐに思い当たった。あっと思った時にはソフィア様が駆け付けていて、女性を励まし、その手を強く握っていた。
すると驚いたことに、女性の体調が回復したのだ。
魔力の暴走が収束する話なんて聞いたことがない私は、目の前で起きた出来事が信じられなかった。
――だけれど、一度だけ同じようなことを目の当たりにしたことがある。
「なぁ、エブリンはどう思う?さっき広場で見たこと」
「っ!私もちょうどそのことを考えていたのよ。やっぱり……ソフィア様には何か不思議なお力があるのかしら」
一人眉間に皺を寄せていると、建物にもたれかかっていたジェイルが神妙な面持ちで話しかけて来た。やっぱりジェイルもそのことを考えていたのね。
「そう考えるのが一番しっくり来るよな。そういえば最近中庭で話したこと、覚えているか?」
「中庭…?ああ、もしかして、離宮で魔力の暴走を起こした人がいないって話?」
「そうそう。あれもよくよく考えれば不思議だよな。十年間、誰一人も、だぜ?俺だって子供の頃に死んでもおかしくなかったのに、姫さんのお付きになってから健康そのものだしな」
「ご主人様が倒れた時もそうだったわよね…あの時、ソフィア様がずっと側に付いていたし、ソフィア様に会いにいらっしゃる度に顔色も良くなっていっていたわ」
こうして振り返ってみると、思い当たることしかない。
ソフィア様には確かに魔力はない。
そのことで不遇な扱いを受け、苦しみ続けてきたことを一番近くで見てきたのは私だ。小さな身体で気丈に振る舞う姿がいじらしく、どれほど私の魔力を分け与えることができたらと思ったことか…
だけれど、魔力がないからこそ何か特別な力をお持ちなのかもしれない。
「ご主人様は…きっとソフィア様の秘めた力を見出されたのね」
「ああ、凄い人だ。それで姫さんのことを見初めて娶ったんだろうな。……ま、それだけじゃないのは見てて分かるけど」
苦笑するジェイルの言わんとすることがすぐに分かって、私も苦笑いを溢す。
「傍で見ていれば、相思相愛なのは明らかなのにね。ソフィア様は愛のない政略結婚だって思い込んでるし…ご主人様はご主人様でソフィア様の気持ちに気付く素振りもないんだもの」
「ま、案外相手の好意なんて気が付かないものだぜ?……側にいればいるほどな」
「?」
何故かジェイルはじっとこちらを見つめてくる。
訳がわからなくて首を傾げると、ふっと優しい笑みを漏らした。不覚にもその笑顔にドキッとする。
ジェイルって、たまにすごく優しい目をするのよね……
僅かに熱を宿した頬をバレないように押さえる。
勘違いしそうになるけれど、ジェイルが優しく見つめるのはソフィア様も同じだから、私たちを妹のように思っているんだわ。私たちは家族も同然に過ごして来たんだもの、きっとそうね。
一人納得したもののなんだか胸がもやりとして、でもその正体が分からなくて更に首を傾げる。
その間にもジェイルは診療所に視線を戻していた。
「出てくる気配ねえな。何か事件が起こるでも無さそうだし、ここらで撤退すっか」
「…そうね。じゃあ屋敷に戻りましょう」
ジェイルの提案に同意して、馬車乗り場へと向かおうとした――が、それは叶わなかった。
がっしりと、手首をジェイルに握られてしまったから。
反射的に見上げた彼は、いたずらっ子のように子供っぽい笑みを浮かべていた。年上のはずなのに、こういう時は少年のように幼く見える。
「そう慌てるなって。せっかく街に出て来たんだ。適当に見て回ろうぜ」
「え、ちょっ、待ってよ…!」
ジェイルは有無を言わさずに診療所を背にして歩き始めた。手を引かれるまま着いていくが、ちょっぴり手首が痛い。
「ちょっとジェイル…痛いってば。離して」
「おっと、悪い。よし、これで大丈夫だろ。行くぞ」
「わっ、ま、待って…っ」
一瞬立ち止まって手首が解放されたことにホッとしたのも束の間。今度は手をぎゅっと握られてしまった。そのままするりと指を絡め取られてしっかりと捕えられてしまう。
な、なななっ、何なのよ……!
「行ってみたかった店があるんだわ。付き合えよ」
「~~っ、分かったわよ」
人の気を知ってか知らずか、ジェイルは鼻歌なんて歌いながらカフェの立ち並ぶ通りに向かって行く。
……ジェイルのくせに。
ドキドキするのは異性に手を握られているから。
……それだけなんだから。
私は最後にチラリと診療所に視線を流して、観念してジェイルの手を軽く、本当に軽くだけ握り返した。
その手はとても熱かった。
「大丈夫だって、信じて待とうぜ」
「え、ええ……」
ソフィア様とイリアム様の様子を見守るために、ジェイルに半ば強引に街に連れ出された私は今、診療所の側の物陰にいる。
お二人は広場で人助けをした後に、その人を支えるようにしてどこかへ向かった。
そして辿り着いたのがこの場所だった。
中に入ってからかなりの時間が経つが、一向に出てくる気配がなくて、私は痺れを切らしてソワソワし始めていた。
それにしてもさっき噴水の広場で起こった出来事は一体なんだったのかしら?
急に女性が苦しみ倒れた時には、きっと魔力の暴走だろうとすぐに思い当たった。あっと思った時にはソフィア様が駆け付けていて、女性を励まし、その手を強く握っていた。
すると驚いたことに、女性の体調が回復したのだ。
魔力の暴走が収束する話なんて聞いたことがない私は、目の前で起きた出来事が信じられなかった。
――だけれど、一度だけ同じようなことを目の当たりにしたことがある。
「なぁ、エブリンはどう思う?さっき広場で見たこと」
「っ!私もちょうどそのことを考えていたのよ。やっぱり……ソフィア様には何か不思議なお力があるのかしら」
一人眉間に皺を寄せていると、建物にもたれかかっていたジェイルが神妙な面持ちで話しかけて来た。やっぱりジェイルもそのことを考えていたのね。
「そう考えるのが一番しっくり来るよな。そういえば最近中庭で話したこと、覚えているか?」
「中庭…?ああ、もしかして、離宮で魔力の暴走を起こした人がいないって話?」
「そうそう。あれもよくよく考えれば不思議だよな。十年間、誰一人も、だぜ?俺だって子供の頃に死んでもおかしくなかったのに、姫さんのお付きになってから健康そのものだしな」
「ご主人様が倒れた時もそうだったわよね…あの時、ソフィア様がずっと側に付いていたし、ソフィア様に会いにいらっしゃる度に顔色も良くなっていっていたわ」
こうして振り返ってみると、思い当たることしかない。
ソフィア様には確かに魔力はない。
そのことで不遇な扱いを受け、苦しみ続けてきたことを一番近くで見てきたのは私だ。小さな身体で気丈に振る舞う姿がいじらしく、どれほど私の魔力を分け与えることができたらと思ったことか…
だけれど、魔力がないからこそ何か特別な力をお持ちなのかもしれない。
「ご主人様は…きっとソフィア様の秘めた力を見出されたのね」
「ああ、凄い人だ。それで姫さんのことを見初めて娶ったんだろうな。……ま、それだけじゃないのは見てて分かるけど」
苦笑するジェイルの言わんとすることがすぐに分かって、私も苦笑いを溢す。
「傍で見ていれば、相思相愛なのは明らかなのにね。ソフィア様は愛のない政略結婚だって思い込んでるし…ご主人様はご主人様でソフィア様の気持ちに気付く素振りもないんだもの」
「ま、案外相手の好意なんて気が付かないものだぜ?……側にいればいるほどな」
「?」
何故かジェイルはじっとこちらを見つめてくる。
訳がわからなくて首を傾げると、ふっと優しい笑みを漏らした。不覚にもその笑顔にドキッとする。
ジェイルって、たまにすごく優しい目をするのよね……
僅かに熱を宿した頬をバレないように押さえる。
勘違いしそうになるけれど、ジェイルが優しく見つめるのはソフィア様も同じだから、私たちを妹のように思っているんだわ。私たちは家族も同然に過ごして来たんだもの、きっとそうね。
一人納得したもののなんだか胸がもやりとして、でもその正体が分からなくて更に首を傾げる。
その間にもジェイルは診療所に視線を戻していた。
「出てくる気配ねえな。何か事件が起こるでも無さそうだし、ここらで撤退すっか」
「…そうね。じゃあ屋敷に戻りましょう」
ジェイルの提案に同意して、馬車乗り場へと向かおうとした――が、それは叶わなかった。
がっしりと、手首をジェイルに握られてしまったから。
反射的に見上げた彼は、いたずらっ子のように子供っぽい笑みを浮かべていた。年上のはずなのに、こういう時は少年のように幼く見える。
「そう慌てるなって。せっかく街に出て来たんだ。適当に見て回ろうぜ」
「え、ちょっ、待ってよ…!」
ジェイルは有無を言わさずに診療所を背にして歩き始めた。手を引かれるまま着いていくが、ちょっぴり手首が痛い。
「ちょっとジェイル…痛いってば。離して」
「おっと、悪い。よし、これで大丈夫だろ。行くぞ」
「わっ、ま、待って…っ」
一瞬立ち止まって手首が解放されたことにホッとしたのも束の間。今度は手をぎゅっと握られてしまった。そのままするりと指を絡め取られてしっかりと捕えられてしまう。
な、なななっ、何なのよ……!
「行ってみたかった店があるんだわ。付き合えよ」
「~~っ、分かったわよ」
人の気を知ってか知らずか、ジェイルは鼻歌なんて歌いながらカフェの立ち並ぶ通りに向かって行く。
……ジェイルのくせに。
ドキドキするのは異性に手を握られているから。
……それだけなんだから。
私は最後にチラリと診療所に視線を流して、観念してジェイルの手を軽く、本当に軽くだけ握り返した。
その手はとても熱かった。