魔力が強すぎる死にかけ公爵は、魔力ゼロの出来損ない王女をご所望です
第七話 結婚と勘違い(イリアム視点)
半日ほど馬車に揺られ、王都にある公爵家の屋敷に到着した。
国王に結婚の申し入れをしたところ瞬く間に手続きが進められ、翌日には神殿に結婚が受理されてしまい、ソフィアには事後報告となってしまった。
勝手に話を進めたことで、軽蔑されたらどうしようかと内心冷や冷やしながら離宮へ迎えに行ったのだが、彼女の反応は斜め上をいっていた。
まさか政略的な結婚だと勘違いされるとは……
それも双方に利益があるだけの、愛のない結婚だと。
出会って間もないが、俺は命を救われたあの日からソフィアに好意を抱いていたし、魔力を安定させることだけが理由で伴侶に望んだわけではない。
そのことを伝える間も無く、何やら勝手に納得されてしまい、今更『好きだ』と伝えにくくなってしまった。今伝えても冗談だと受け流される気しかしない。
まあ、これからの結婚生活で少しずつ俺の気持ちを、そしてソフィアの秘められた力を知っていって貰えばいいか…
そう前向きに考えることとして、ソフィアのために急いで用立てた部屋へと案内した。
「こ、こんなに素敵な部屋を使ってもいいのでしょうか」
「ああ、公爵家の妻が代々使用してきた部屋だ。その……俺の部屋の隣だから、何かあればいつでも訪れるといい」
ソフィアは目を輝かせながら自室を隅から隅まで眺めている。
壁紙には淡い水色の花柄を選んだ。家具は代々使われているものに加え、温かみのある木製のものが中心だ。その他の調度品も派手なデザインは避け、部屋の調和を崩さず控えめながらも上品なものを取り揃えた。
好みではなかったら全て取り替えるつもりでいたが、彼女の反応を見るに気に入って貰えたようで安心した。
「公爵様、この扉は?」
「あ、ああ……これは…」
ソフィアが指差したのは、俺の部屋に通じる扉。
夫婦が部屋を行き来するためのものだが……
「その……俺の部屋に通じている扉だ。もちろん、必要なければ鍵をかけることもできるから安心してくれ」
「まあ、そうなのですね!寝る前にお話がしたくなったらいつでも会いに行けるのですね」
「……そうだな」
ソフィアの反応に安心したようなガッカリしたような、複雑な思いが胸に広がる。
もちろんソフィアと気持ちが通じるまで手を出すつもりはないのだが、これほどまでに警戒されないのも男としてどうなのだろうか?そもそもソフィアは俺のことをどう思っているのだろうか……
実の家族にぞんざいな扱いをされ、閉じ込められていた離宮から救い出したい気持ちが先行してしまったが、これからゆっくり心を通わせたいところだ。
「突然のことで疲れただろう。今日は部屋に食事を運ばせよう。ゆっくり食べて風呂に入って休むといい。屋敷の案内や使用人たちへの紹介は明日にしよう」
「ありがとうございます。ですが私は元気ですよ?それにせっかく結婚して初めての食事ですもの、公爵様と一緒に食べたいです」
「そ、そうか。ならばそうしよう」
にこりと微笑むソフィアが眩しい。天使か?
「公爵様、どうなさいましたか?また体調が悪くなりましたか?」
俺が胸を押さえたからか、ソフィアが心配そうに顔を覗き込んでくる。その儚げな表情も愛らしいと思うとは…自分が思っていた以上に俺はソフィアに気持ちを傾けていたのか。
「いや、大丈夫だ。あなたがあまりに愛らしいので胸が苦しくなっただけだ」
「え?」
「あっ、いや、なんでもない。気にするな……それよりも」
ポロリと本心が口に出てしまい、慌てて口元を押さえる。ソフィアも目をまん丸にして驚いている。話題を変えよう。
「あなたはもうこの公爵家の一員であり、ソフィア・ラインザック公爵夫人となった。だから、その……『公爵様』ではなく、イリアムと呼んではくれないだろうか」
「い、りあむ様?」
「うぐぅ」
「はっ!大丈夫ですか!?」
「いや、想像以上の破壊力だったもので……」
「はあ」
ソフィアに名前で呼ばれて思わず膝をついてしまった。また慌てたソフィアが俺の肩に手を添えて様子を窺ってくる。可愛い。
「あの…公爵さ、イリアム様も、私のことはソフィアとお呼びください」
ソフィアは少し視線を泳がせて、おずおずと上目遣いで尋ねてきた。ぐぅう、胸が苦しい。
「……そ、ふぃあ」
「はいっ!イリアム様っ!」
絞り出すように名前を呼ぶと、ソフィアは嬉しそうに表情を綻ばせた。ふわりと絹のように細く淡いブロンドの髪が揺れ、ソフィアの周りに花が舞っているのかと錯覚する。俺は思わず目を擦った。
……どうやら随分と重症らしい。
このあと二人で食べた夕飯の味はよく分からなかった。
国王に結婚の申し入れをしたところ瞬く間に手続きが進められ、翌日には神殿に結婚が受理されてしまい、ソフィアには事後報告となってしまった。
勝手に話を進めたことで、軽蔑されたらどうしようかと内心冷や冷やしながら離宮へ迎えに行ったのだが、彼女の反応は斜め上をいっていた。
まさか政略的な結婚だと勘違いされるとは……
それも双方に利益があるだけの、愛のない結婚だと。
出会って間もないが、俺は命を救われたあの日からソフィアに好意を抱いていたし、魔力を安定させることだけが理由で伴侶に望んだわけではない。
そのことを伝える間も無く、何やら勝手に納得されてしまい、今更『好きだ』と伝えにくくなってしまった。今伝えても冗談だと受け流される気しかしない。
まあ、これからの結婚生活で少しずつ俺の気持ちを、そしてソフィアの秘められた力を知っていって貰えばいいか…
そう前向きに考えることとして、ソフィアのために急いで用立てた部屋へと案内した。
「こ、こんなに素敵な部屋を使ってもいいのでしょうか」
「ああ、公爵家の妻が代々使用してきた部屋だ。その……俺の部屋の隣だから、何かあればいつでも訪れるといい」
ソフィアは目を輝かせながら自室を隅から隅まで眺めている。
壁紙には淡い水色の花柄を選んだ。家具は代々使われているものに加え、温かみのある木製のものが中心だ。その他の調度品も派手なデザインは避け、部屋の調和を崩さず控えめながらも上品なものを取り揃えた。
好みではなかったら全て取り替えるつもりでいたが、彼女の反応を見るに気に入って貰えたようで安心した。
「公爵様、この扉は?」
「あ、ああ……これは…」
ソフィアが指差したのは、俺の部屋に通じる扉。
夫婦が部屋を行き来するためのものだが……
「その……俺の部屋に通じている扉だ。もちろん、必要なければ鍵をかけることもできるから安心してくれ」
「まあ、そうなのですね!寝る前にお話がしたくなったらいつでも会いに行けるのですね」
「……そうだな」
ソフィアの反応に安心したようなガッカリしたような、複雑な思いが胸に広がる。
もちろんソフィアと気持ちが通じるまで手を出すつもりはないのだが、これほどまでに警戒されないのも男としてどうなのだろうか?そもそもソフィアは俺のことをどう思っているのだろうか……
実の家族にぞんざいな扱いをされ、閉じ込められていた離宮から救い出したい気持ちが先行してしまったが、これからゆっくり心を通わせたいところだ。
「突然のことで疲れただろう。今日は部屋に食事を運ばせよう。ゆっくり食べて風呂に入って休むといい。屋敷の案内や使用人たちへの紹介は明日にしよう」
「ありがとうございます。ですが私は元気ですよ?それにせっかく結婚して初めての食事ですもの、公爵様と一緒に食べたいです」
「そ、そうか。ならばそうしよう」
にこりと微笑むソフィアが眩しい。天使か?
「公爵様、どうなさいましたか?また体調が悪くなりましたか?」
俺が胸を押さえたからか、ソフィアが心配そうに顔を覗き込んでくる。その儚げな表情も愛らしいと思うとは…自分が思っていた以上に俺はソフィアに気持ちを傾けていたのか。
「いや、大丈夫だ。あなたがあまりに愛らしいので胸が苦しくなっただけだ」
「え?」
「あっ、いや、なんでもない。気にするな……それよりも」
ポロリと本心が口に出てしまい、慌てて口元を押さえる。ソフィアも目をまん丸にして驚いている。話題を変えよう。
「あなたはもうこの公爵家の一員であり、ソフィア・ラインザック公爵夫人となった。だから、その……『公爵様』ではなく、イリアムと呼んではくれないだろうか」
「い、りあむ様?」
「うぐぅ」
「はっ!大丈夫ですか!?」
「いや、想像以上の破壊力だったもので……」
「はあ」
ソフィアに名前で呼ばれて思わず膝をついてしまった。また慌てたソフィアが俺の肩に手を添えて様子を窺ってくる。可愛い。
「あの…公爵さ、イリアム様も、私のことはソフィアとお呼びください」
ソフィアは少し視線を泳がせて、おずおずと上目遣いで尋ねてきた。ぐぅう、胸が苦しい。
「……そ、ふぃあ」
「はいっ!イリアム様っ!」
絞り出すように名前を呼ぶと、ソフィアは嬉しそうに表情を綻ばせた。ふわりと絹のように細く淡いブロンドの髪が揺れ、ソフィアの周りに花が舞っているのかと錯覚する。俺は思わず目を擦った。
……どうやら随分と重症らしい。
このあと二人で食べた夕飯の味はよく分からなかった。