古本屋・忘れな草
 怪訝な顔をしていたのだろうか、冬月さんはへにゃりと笑った。

「橘さん、頭が良いね。頭が良いというか、察しがいいのかな」
「冬月さん……」

 降参だ、と言うように肩を落とした冬月さんは奥に下がり、二杯目のミルクティーを淹れてきた。

 そしてまた、90°の位置に座った。

「君に見えているこの姿の俺は、19歳だ。けど、この12月に20歳になったから肉体の方は20歳だ。20歳の誕生日にお酒を飲んでみたかったし、成人式にも参加したかったな……」

 冬月さんは遠くを見つめながら悲しそうな目をしていた。

「どうして……」
「俺んちはお金がなくてね。高校卒業後は就職したんだ。かなり大手でね、社員寮もあって。俺にとってはまたとない好条件だと思ったんだけど……」

 ミルクティーを一口飲み、冬月さんは溜息を吐いた。

「……でも、それは外見だけだった。パワハラは酷いし、社員寮も住めるけど劣悪な環境だった」

 「それだけなら良かったんだけど」と冬月さんは言い、口ごもった。

 私を一目見て、視線を逸らす。
 光のない瞳が揺れていた。

「続けてください」

 私がそう言うと、何かを察したように冬月さんは再び口を開いた。

「重大な不正を見つけてしまったんだ。それも複数個」

——やっぱり……

 なんとなく、私は冬月さんがそう言うんじゃないかと思っていた。
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