古本屋・忘れな草
「どうして……どうして君がそんなことをするんだ。こう言っちゃアレだが、橘電機が倒産したり君の父親が逮捕されたら、君が苦労することになるんだよ」
「そうですね。大学にも進学できませんね」
「だったら……!」

——どうして冬月さんが悲しそうな顔をするの……

「でも。冬月さんが生きてこの世界に戻りやすくなります」
「……!」

 私の肩に置いていた冬月さんの手が静かに離れた。

 陽気なBGMは一転して暗くなった。ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」が静かに室内を支配する。

「明らかに時間のかかりそうな私の心を癒すことに嫌な顔をしなかったのは、まだ心の中で迷いがあるからじゃないんですか」
「それは……」
「私は、冬月さんがどうしても死にたいのであれば止めません。でも少しでも冬月さんが生きたいと思えるように努力したいんです」

 冷めきったミルクティーに口をつける。

——この先を言うのは勇気がいるけれど……

 私は緊張で痛む心臓を宥め、冬月さんを見つめた。

「私は、生きた冬月さんと会いたいです。会って、一緒に歳を重ねたいんです」
「それって……」

 その言葉には答えず、話を続ける。

「だから、冬月さんの知っていることを全て教えてください」
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