古本屋・忘れな草
「こ、こんにちは。私、冬月さんの知り合いで……」
「そうですか……。わざわざありがとうございます。瞬の母です」

 冬月さんの母も頬がげっそりとしていて、黒染めしているであろう髪も長く手入れがされておらず、憔悴している様子が窺える。

「これ……良ければ読んでください」

 冬月さんの母はベッドの傍にある引き出しから、一冊の手帳を取り出して渡した。

「これは……?」
「この子がこうなる前に書いていたものです」

 手帳を開くと、おびただしい数の記録が残されていた。
 橘電機で受けた数々の記録が。

『今日も先輩に怒鳴られた。だけど、その先輩は社長に評価されていた。新人は怒鳴って仕込むのが社訓らしい』

『新人は残業代を請求してはならないと言われた』

『社長夫人の話し相手をさせられた。それなのに業務量変わらず。今日もサービス残業』

『年末の忘年会で芸をやれと言われた』

『会計の数字が違うと指摘したら書類を破られた』

『明らかに虚偽の内容を書けと強要された』
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