古本屋・忘れな草
 その足で商店街へ行くと、どこか安心感のあるアンティーク調の建物が待っていた。

 カランカラン、と心地よいベルの音を鳴らしてドアを開ける。
 何一つ変わっていない店内の、布団を取り払われた掘りごたつに冬月さんがいた。

——寝てる……。

 本を読んでいる途中で眠ってしまったのか、傍に本が置かれていた。タイトルは『こゝろ』、作者は夏目漱石。
 古本屋らしく、修繕箇所の多い年季の入った見た目だ。
 
 穏やかそうに眠る冬月さんの寝顔は、病室で眠っている冬月さんとは比べ物にならない。
 
 私は、いつも冬月さんがそうするように90°の位置に座った。
 そうして、しばらくの間冬月さんの寝姿をただ眺めていた。
< 24 / 39 >

この作品をシェア

pagetop