古本屋・忘れな草
「もう、会えませんか」
 
 口をついて出た言葉に、瞬さんは困ったように目を逸らした。

「さあ、分からない。告発によって君自身が癒されたなら、そうかもしれない。そうじゃないかもしれない」

——私が、癒される……

 “癒される”の基準は何なのだろうか。
 私がそう思っていなくても、心は癒されていたらもうここへは来れない。

 瞬さんがまた死を選んだら、もう永遠に言葉を交わすことはできない。

「君がお婆さんになってもこのままかもしれない。歳をとらなくて良いね」

 瞬さんはまたふにゃりと笑った。

——それは違う

「言いましたよね。私は瞬さんと年を重ねたいです」

——瞬さんは、どうですか

 とは、聞けなかった。

 黙り込む私に、瞬さんは視線を合わせてきた。

「俺と約束して。その告発が終わったら、受験に集中すること」

 瞬さんが小指を立てて私に差し出してきた。
 その表情は年上らしく、至って真剣だった。

「じゃあ私とも約束してください」

 私も小指を立てた。

「何?」
「次会えたら、私の話を聞いてください」

 瞬さんと私は笑って小指を絡めた。
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