古本屋・忘れな草

別れの季節

 瞬さんに会うのは告発前夜以来だ。
 
 あの後『古本屋・忘れな草』に行けないことが確定してしまっていたら、きっと受験に集中できなくなる。
 瞬さんとの約束を破る訳にはいかなかった。

 もう自然と足が向かうようになった『古本屋・忘れな草』のある一角に向かう。

 ドクドクと暴れる心臓を押さえながら顔をあげると、懐かしさを覚えるアンティーク調の建物がそこにあった。

「いらっしゃいませ、紗里奈さん」

 瞬さんは、変わらずそこにいた。
 瞬さんの淹れたコーヒーに砂糖を1つ入れる。
 
 不思議だった。
 告発が成功して、父も母も暴力を振るったり厳しく叱ったりしてこなくなった。

 何より、それ以上に、瞬さんとの日々は確実に私を癒していた。

——もしかして

「瞬さん。生死の選択をするのに何か躊躇いがあるんですか?」
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