古本屋・忘れな草
「本当は忘れてほしくないです。でも、もしそうなっても会いに行きます。何度でも」

 繋がれた両手を一層強く握って、離した。

 いつの間にか零れていた涙を拭う。
 瞬さんの体温は相変わらず低い。

「紗里奈さん……俺は」

 私は人差し指を立てて瞬さんの口に近づけた。

「返事は、次会った時に教えてください」

 私は笑顔を作ってそう言い、『古本屋・忘れな草』を出た。

 カランカラン、と私をいつも優しく出迎えたベルは、新たな門出に向かう私の背中を押すように心の中で響いていた。

 意を決して振り返ると、私が大好きだったアンティーク調の建物は消えていた。
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