古本屋・忘れな草
 店内に流れるピアノ音楽が心地良い。
 ヴィヴァルディの「四季」より「冬」。

 この曲はかつて私がピアノを習っていた時に気に入っていた曲だ。

「お待たせいたしました」

 冬月さんが私の前に置いたミルクティーの良い匂いが心を癒していく。

 そして冬月さんも自分用のミルクティーを置いて、私から90°の位置に座る。

「あの、お代は……?」

 流されるままについ注文してしまったが、こういう時法外な値段を請求されるかもしれない。迂闊だった。

「ああ、お代はいただきません。お客様の傷が癒えましたら、それがお代です」

——傷が癒えるって……

「……あの、敬語やめてください。どう見ても年上じゃないですか」

 そう言うと冬月さんは驚いたように目を見開いたが、すぐに笑みを見せた。

「分かった。じゃあ君も敬語はやめて」
「それはちょっと……」
「年上だからといって敬う必要はないけれど……分かった。君の好きなように胸の内を話してくれていいよ」

 促されるまま、私は今日自分の身に起こったことを話した。
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