古本屋・忘れな草
 冬月さんは私の話を遮ることなく、最後まで話を聞いてくれた。
 話し終わると、冬月さんはポツリと一言。

「その先輩、もしかして女性の友人が多いんじゃない?」
「どうして分かるんですか……?」
 
 冬月さんは苦い顔をしつつ腕を組んだ。

「話を聞く限り、その手の男は誰にでも優しくして“脈あり”の子を沢山作り、その中から選びたいタイプだね。選ぶ側という優位に立っていたい傲慢な奴だ」

——そんな……

 ただでさえ光のない冬月さんの瞳が、底なし沼のように真っ暗になっている。

 俯いてミルクティーを飲む私に、冬月さんは肩を軽く叩いた。

「まあ良かったんじゃないかな、そんな奴だって早めに分かってさ。次、行こう。次」
「そう……ですね」
「じゃあそんな君に、この本を」

 冬月さんが近くの本棚にあった本を一冊取り出し、渡した。
 タイトルは『お目出たき人』。作者は武者小路実篤。

「失恋の話だよ。ちょっと癖があるけれど。君にあげる」
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