古本屋・忘れな草
「で、何があったのかな?」

 またも掘りごたつに座ってミルクティーを一口飲むと、再び冷えていた心が温まりだす。

「それが……私にもよく分からなくて」

 確かに、自分の肩書きによって先輩が「付き合おう」と言ったことは腹立たしい。

 けれど傷ついた訳じゃない。
 だから、癒すべき傷などないのだ。

「ふむ……」

 そんな私の話を聞いた冬月さんは考えこむように顎に手をやった。

「何か、他に心当たりはない?俺に言ってないことで、傷ついたこと」
「うーん……」
「そうだなあ、昨日帰る時にここが見えなくなったんなら、昨日帰ってから」

 昨日、帰ってから……。思考を巡らせると、1つピンときた。

「何か分かった?」

 ハッとした私の表情を読み取ったのか、冬月さんがそう聞いた。

「昨日、父に殴られたんでした。……まあいつものことなんですけど」

 ははは、と笑う私と対照的に、冬月さんは驚いたように目を見開いた。

「いやいや、それは笑うことじゃないでしょ……」
「笑うしか、ないんです」
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