元ホストは一途に愛する
「あら、陽菜ちゃん気乗りしない?」


「……あ、足が痺れて動けません」


精一杯の抵抗と事実だったのだが、おトミさんも斉木さんも顔を見合わせて優しく笑う。


「痺れが治るの、待っててもいいですか?」


斉木さんが痺れ以外の気遣いを含めたように、私にそっと尋ねた。
断ればきっと、斉木さんはおトミさんが納得するようにこの場を納めてくれるだろう。
縁談そのものもなかったことにしてくれるのかもしれない。
そう感じるほど、会っただけでわかるほどには私よりずっと大人の男の人だった。


「……はい」


けれど気がつけば、私は断ることなく小さくだけど確かにそう答えて、頷いていた。
斉木さんとの縁談を自分からお断りする理由が、やっぱり今のところどこを探しても見当たらない。


「よかった」
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