元ホストは一途に愛する

二人きり

斉木さんは私が逃げようとしていたことも。
斉木さんのことを拒む理由がなく迷っていることも。
すべて察してくれているようだった。


それでも私と過ごしたいと言ってもらえた気がして、私は素直に嬉しくて頷いてしまったのだと思う。


足の痺れが引いたあとの私はと言うと、おトミさんの家を後にして斉木さんの車の助手席にいる。
正座して向かい合っていたときの緊張感とはまた違う緊張感に襲われて、車酔いなんてしたことがないのに酔いそうだ。


念の為、言っておくと斉木さんの運転には何も問題がない。


お見合いには斉木さんが私より後から来たから、彼の車を見たのは乗る直前のことである。
ピカピカのボディはもちろん、車に詳しくなくても高級車であろうことは想像がついた。


エスコートされるままに助手席に座れば、座り心地のいいシート。
そして車内にはふわっといい香りが漂う。
運転席に座った斉木さんとの距離感が近すぎるとか言いたいんじゃない、もはや密室だ。


「陽菜ちゃん」
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