元ホストは一途に愛する
「はい!」


窓の外を見るのに忙しいふりをしていた私は、斉木さんに呼ばれて大きすぎる返事を静かだった車内に響かせた。
私の返事にははっと笑う斉木さんは、どこか上品で余裕が違う。


「“陽菜ちゃん”って呼んでもいいかなって、訊こうかと思ったんだけど」
「す、好きに呼んでください」
「ありがとう、じゃあ陽菜ちゃん。どこか行きたいところはある?」
「……斉木さんが楽しめる場所が想像できません」
「優しいな。……じゃあ俺が行きたいところに連れて行っちゃうけど、いいの?」


斉木さんは機嫌よく笑ったあと、色っぽい低音ボイスで私に問いかけた。
その艶っぽさによからぬ場所へ誘われるのではないかという心配が頭を過ぎる。
しかしきっとそれも斉木さんは計算済みで、私は彼の手のひらの上に転がされている気分だ。


だから腹を括るように、私は答えた。


「斉木さんの行きたいところで!」
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