元ホストは一途に愛する
斉木さんは気遣って冷たいお茶を私に用意しているときも、「どうぞ」と出してくれるときも、しばらく笑いが止まらない様子だった。
私は大きなソファーの端に腰掛けて小さく小さくなるしかない。


(恥ずかしい……)


どうしてこうも、女子を甘やかすことに慣れているであろう大人の男性に、もっとうまく甘えられないのだろうか。
きっと深みにハマるのが怖いのだろうなと瞬間的に私は思った。
どれだけ人を好きになっても、付き合って仲が深まったとして、さらにその人を好きになったってフラれてきた経験が誰かを好きになることのハードルをどんどん上げていく。


「お水のほうが良かった?」


静かに隣に腰を下ろした斉木さんが、俯く私を心配そうに覗き込んだ。
「いえ!」とあわてて首を横に振ると、微笑みが返ってくる。


「斉木さんて……」


思わず口から出かかった質問を失礼だと思い飲み込むと、斉木さんはお茶を口に含んでから「何でもどうぞ?」と微笑みを絶やさない。


「……どうして結婚してないんですか?」
「不思議?」
「はい……」
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