ありふれたフラッシュ
「最上さん、体調良くないんじゃないかな。一旦休んだ方が……」

 声をかけられてから気付いたが、遅かった。多分画面が見えたのだろう、数多は途中で黙り込んだ。そこまで分かりやすく反応されると、逆に消しづらい。美紀はページを開いたまま、何も気にしないといったように「いえ、大丈夫です」と答えた。
 実際何も問題はない。R指定はないし、休み時間ならスマホを使用してもいいし、漫画を読んではいけないという決まりもない。学校で不適切な行動を取るなと言われてしまえばそれまでなのだが。
 数多は画面から目を逸らさないまま言った。

「ちょっと、来てくれるかな」

「はい」

 従わざるを得なかった。先生として当然の対応なのかもしれないが、数多がいちいちこの程度のことで説教をするタイプの先生であったことは少々ショックだった。フレンドリーな先生のことだからむしろ興味を示し、何なら一緒に読んでくれると思っていた。こちらから雑談を拒否しておきながら何を期待しているんだという話だが。
 数多の後に続いて教室を出る。廊下で怒り出すかと思いきや、奥まで進んで階段を降りる。一体どこへ向かっているのだろう。ところでもうすぐ授業が始まると思うのだが、こっちを優先していいのだろうか。
 また一つ、また一つと降りて一階まで来たところで、美紀は行き先を察した。嫌だ、と思った。それでも念の為ついていくと、案の定数多が立ち止まったのは保健室の前だった。
 拒否すると分かっているから、わざと説教するかのようにして連れて来させたのだろう。本当の説教じゃなくて良かったと安心すると同時に、結局迷惑をかけてしまったという罪悪感に襲われる。

「大丈夫です、帰ります」

 そこでチャイムも鳴ったので、焦って踵を返そうとしたのだが。

「いいから」

 数多に半ば強引に背中を押され、中に押し込まれてしまった。
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